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IMO会議報告

~IMO第83回海上安全委員会(MSC83)の結果報告~

10月3日から12日まで、デンマークコペンハーゲンにおいて第83回海上安全委員会(MSC83)が開催されました。その主要な審議結果は以下のとおりです。

【概要】

1.ゴールベースの新造船構造基準(GBS)

タンカー及びバルクキャリアを対象とする新造船構造のGBSについては、今次会合では承認されず、MSC85において新造船構造のGBSを最終化し、MSC86(2009年春)で採択することが合意された。なお、鋼材の板厚要件に関係する箇所(「ネット寸法」の定義)ついては、板厚増を求めるギリシャ等の強い反対を退け、現行CSRが認められ得る修正が加えられた。

2.ボイドスペースの塗装基準

ボイドスペース塗装基準は、当面非強制とすることで合意し、承認された。未決着であったスプレー塗装の最低回数は、ギリシャ等の「2回」の主張を退け、我が国が主張する「1回」で決着した。

3.車両区域等における消火水の排水対策

2006年に多くの死者を出したAl Salam Boccaccio 98号の火災消火中の沈没事故を受け、緊急を要する事項として、消火水排水中にRORO船の車両区域等の排水口がゴミ等によって詰まることを防止するための措置を講じること等が合意され、それらを200971日から既存船を含め強制化するためのSOLAS条約改正案が承認された。本改正案は、MSC84で採択される予定。なお、具体的な技術要件を含むガイドラインが2009年までに策定される予定。

4.その他の基準等の採択・承認

上記の他、今次会合で承認又は採択された主な基準等は以下のとおり。

(1)製品安全データシート(MSDS)の義務化【2009年7月1日発効】
(2)非損傷時復原性(IS)コードの承認(MSC85で採択予定)
(3)非常時曳航手引書の備え付けに係るSOLAS条約改正の承認(MSC84で採択予定)
(4)船舶の乗降手段備え付け及び保守点検に関するSOLAS条約改正の承認(MSC84で採択予定)
(5)AIS技術を利用したAIS-SARTを従来のSARTの代替品と認めるSOLAS条約改正の承認(MSC84で採択予定)
(6)航法統合化システム(INS)の性能基準の改正(抜本的見直し)の承認
(7)航海灯、航海灯制御器及び関連装置の性能基準の承認

5.新規作業計画

MSC及び関連小委員会の新規作業計画として合意した事項は以下のとおり。

(1)ばら積み液体・ガス小委員会(BLG)

 - 天然ガスハイドレート・ペレット(NGHP)輸送船の安全基準の策定(日本提案)
 - LNGの安全基準(IGCコード)の見直し
 - 製品安全データシート(MSDS)に関する勧告の見直し

(2)危険物、固体貨物及びコンテナ小委員会(DSC)

 - 水反応性物質の積載要件の見直し
 - 安全なコンテナに関する国際条約(CSC)の改正
 - 貨物輸送の梱包ユニット(CTU)に関するガイドラインの見直し

(3)防火小委員会(FP)

 - 車両甲板及び特殊区画からの消火用水の排水に関するガイドラインの策定
 - 甲板上の貨物区画の防火要件の見直し(コンテナ船)
 - 通気ダクトの防火要件の見直し
 - 機関区域からの脱出手段要件の見直し
 - 固定式炭酸ガス消火装置の制御、及び放出対象区域からの脱出要件の見直し
 - タンカーの通気孔及び開口の場所の要件の見直し

(4)航行安全小委員会(NAV)

 - 航海及び通信機器のソフトウエア等のアップグレード手続きの策定
 - 航海データ記録装置(VDR及びS-VDR)の性能基準の見直し

(5)設計設備小委員会(DE)

 - 船内騒音の防止に関する強制要件の策定
 - タンカー及び単船側バルカーの検査強化プログラム(A.744(20))の見直し
 - バルクキャリアの定義の見直し

(6)復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF)

 - タンカー及びばら積み貨物船の損傷時復原性の検証ガイドラインの策定
 - 小型漁船の安全基準の国内取り入れガイドラインの策定

【解説】

1.ゴールベースの新造船構造基準(GBS)

2002年11月に発生した「プレスティージ号」折損事故等の大規模事故の発生防止のために、5段階の階層(Tier)構造の下で船級協会の船舶構造規則等を評価する枠組としてGBS(Goal Based Standards)が検討されている。昨年5月のMSC81で、タンカー及びバルクキャリアを対象とする仕様的アプローチに基づく新造船構造のGBSと、セーフティレベルアプローチ(SLA:リスクを物差しとして、達成すべき船舶の安全性レベルを定量的に設定する規則策定方式)に基づくGBSを並行して策定していくことが合意されている。

今次会合での審議結果は以下のとおり。

(1)仕様的アプローチに基づく新造船構造のGBS

 Tier I(目標)及びTier II(機能要件)に関してはMSC81で基本的に合意されており、Tier III(適合検証)については、昨年12月のMSC82で設置されたパイロット・パネルで船級協会連合(IACS)の統一構造規則(CSR)のGBSへの適合性についての評価の試行を通じて検討が進められてきた。我が国からは船技協GBSプロジェクト委員の吉田氏(海上技術安全研究所)がパネルメンバーとして選出されている。また、コレスポンデンスグループ(CG)では、SOLAS条約の改正案等の策定作業が進められてきた。今次会合では、パイロット・パネル及びCGの報告を中心に審議が行われ、主な結果は以下のとおり。

①腐食予備厚の要件に関連するネット寸法の定義については、ギリシャ等の強い反対を退け、パイロット・パネルで過半数の支持があった以下のIACSの修正提案が認められた。

修正前ネット寸法は、鋼材の腐食予備厚を除いた非損傷状態の構造が、設計荷重に耐える強度を持たせなければならない。

修正後ネット寸法は、船舶の生涯通じて想定される妥当な鋼材の腐食衰耗を考慮に入れた非損傷状態の構造が、設計荷重に耐える強度を持たせなければならない。

修正前の定義を厳格に適用すれば、一切の腐食予備厚を強度評価に算入することは認められない。これは最終強度の評価においては正しいが、疲労強度の評価においては、新造時の腐食予備厚を含む板厚が衰耗していく過程での応力の蓄積を考慮すべきであることから、鋼材の腐食予備厚の一部を構造強度に加えることが認められ得るよう修正されたものである。なお、修正前の定義に従えば、CSRの強度要件は板厚を増す方向で修正されることが求められることになる。

②陸上及び船内に保持しておく建造図面等に関する知的財産保護に関する規定については、SOLAS条約改正案には含めないこととされたが、MSC85での関連サーキュラーの検討の際に更なる検討を進めることとされた。

③今後は、パイロット・パネルを第2フェーズとして継続し、Tier IIIの最終案を作成し、次々回のMSC85(2008年12月)に報告させることが合意され、その報告を踏まえ、SOLAS条約改正案や関連ガイドライン案等をMSC85において最終化し、MSC86(2009年春)に採択することが合意された。

(2)セーフティレベルアプローチ(SLA)に基づくGBS

 MSC82で合意された長期計画に沿って今後も作業を進めること、また、リスク解析で必要となるデータの整備方法、解析手段の明確化及び費用対効果評価(FSA)の利用に関して、MSC84までにコレスポンデンスグループにおいて検討を進めることが合意された。

(3)GBSのIMO規則作成への一般適用

 防火・救命等他分野にも適用できる規則作成のための基準作り、すなわち、統一したゴールベース基準のフレームワークを作成することが合意され、コレスポンデンスグループを形成し、次回MSC84(2008年5月)までに長期作業計画案を作成することが合意された。

2.ボイドスペースの塗装基準

船舶の構造劣化対策の一環として昨年12月のMSC82で採択されたバラストタンク塗装の強制基準に続き、ボイドスペースの塗装基準の策定が進められてきた。本年3月に開催されたIMO第50回船舶設計設備小委員会(DE50)において、我が国の意見が大筋反映された形で油タンカー及びばら積み貨物船を対象とした塗装性能基準案がまとめられ、本基準を適用し経験を得るまでは、当面非強制とすることで合意し、次MSC83にその採択について上程された。ただし、同基準案では、スプレー塗装の最低回数についてのみ、「1回」又は「2回」で決着されておらず、今次MSCにその決定が委ねられていた。

今次会合では、ギリシャから、性能基準案の内容を修正・強化(上下スツールへのバラストタンク基準の適用等)し、バラストタンクの塗装性能基準と同時期に強制化を求める提案文章が提出された他、英国、RINA(英国造船学会)から完全は閉鎖区画(totally enclosed space)への基準の適用除外に懸念を表明する文章が提出されていた。

審議では、ギリシャの提案を支持する勢力とDE50での合意事項を再議論することに反対する我が国含む勢力に二分化し、DEに差し戻し再検討を行うという案も出されたが、最終的に議長は、後者の支持の方が多いとしてギリシャ提案を退けた。

スプレー塗装の最低回数については、我が国が主張する「1回」への支持と、ギリシャの主張する「2回」への支持で意見が分かれたため、投票を行い、28対22で、「1回」とすることで決着した。

閉鎖区画の取り扱いについては、英国が提案した検査要件が適用となる旨の注釈を記載することで合意した。

以上の結果、DE50でまとめられた基準案に内容上の修正を加えることなく、非強制の塗装性能基準として採択された。(なお、非強制という趣旨は、MSCが締約国政府に対してその適用を「勧告(recommend)」するものであり、主官庁(及びその船級)にその裁量の余地が残されるという意味と解すものであり、事実上、強制適用される場合もあるため注意を要する。)

3. 車両区画等における消火水の排水対策

2006年2月に紅海で発生し、1000人以上の死者・行方不明者を出した旅客フェリー「Al Salam Boccaccio 98」号の事故調査結果を受け、デンマーク・ノルウェー、スエーデンから、

車両甲板等の排水口が消化水排水中にゴミ等によって詰まることを防止するため、排水口の外側に大きな防護網を設置すること

一定の船体傾斜下においても消火水の排水を確保することを内容とする条約改正案が今次会合に提出された。

審議の結果、具体的な技術要件については、今後策定されるガイドラインに含めることとされたものの、可能な限り早期に対策を講じるべく、その義務化を規定するSOLAS条約改正案が急遽作成された。さらには、同案に関するサーキュラーを発出することとなった。なお、ガイドラインは、今後防火小委員会(FP)及び復原性・満載喫水線・漁船安全小委員会(SLF)にて2009年までに作成することになった。

 我が国としては、現存船への適用是非については、ガイドラインの策定とあわせて検討すべきであり、今次会合での条約改正案の承認を見送ることを提案し、ギリシャ等から支持を受けた。しかしながら、対策の必要性が明らかになった以上、極めて緊急を要する重要事項であるとの多数の意見により、①の措置については、現存船にも適用することとし、適用日を2009年7月1日と仮置きした上で、今次会合で承認された。本条約の改正案はMSC84で採択される予定である。

以上

●本件に関するお問い合せ先
(財)日本船舶技術研究協会 基準・規格グループ 今井、貴島、北向
TEL:03-3502-2277 FAX:03-3504-2350
e-mail:info@jstra.jp

 
 


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